「あれ、旅行じゃなかったのかい?」
 店に入るとにいちゃんがきょとんとした表情であたしを見た。あたしは頭を掻きながら、「突然だったから着替え持ってきてなくて」と言うと、にいちゃんは「なるほど」応えてケタケタと笑った。

 あたしは気に入ったタイトなTシャツを2枚を選んで、それをにいちゃんに差し出す。
「ヲトメちゃん、旅行なのにそれだけでいいの?」
「え? なんか変かな」
「いや、普通ならもっと着飾るだろうと思ってさ」
 そう言われて、あたしは手に取ったTシャツを見詰めた。シンプルで好きなんだけど、確かにあんまり今っぽいお洒落じゃないかもしれない。それに色っぽくないと言えばそうかも。

「でも、もうずっとジーンズばっかり穿いてたから、今更ミニスカートとか恥ずかしいじゃん」
「彼氏と旅行なんだろ。ならいつもと違う格好でもいいんじゃないか?」
「彼氏じゃないんだけど……」
 今の自分の格好を見る。タイトなTシャツと太目の男モノのジーンズを腰履きにしてスニーカー。色っぽさのカケラもない。

 でもホント、ずっとミニなんか着てないから、そんな格好をするのはかなり恥ずかしい。いや、恥ずかしいを通り越して、罰ゲームみたいな気分だ。でも、あいつとの旅行はこれが最初で最後だろうし、そういうあたしをあいつに見てもらいたい気持ちもどこかにある。

「こんなのはどう?」
 にいちゃんが手渡してくれたのは、タータンチェックのミニだった。スタイルがいいのならばこういうのも似合うのだろうけど、あたしには似合わないように思える。

「あたしには似合わないよ、絶対」
「そんなことないと思うぞ。俺、これでもアパレル関係の人間なんだけど」
 にいちゃんにそう言われて、あたしは戸惑いながらそれを受け取った。にいちゃんはくすくすと笑うと、あたしに幾つかの服を選んでくれた。