明け方、あたしは柔らかいまどろみの中にいた。昂ぶった気持ちのままに抱かれ、何度も何度も絶頂に達し半ば意識を失ってしまい、心地良い余韻の中でたゆたっていた。

 不意に意識が戻り、ベッドから消えたアキラの姿を探す。彼はベッドルームの隅にある机に向かい、パソコンのキーボードを叩いていた。その目はとても真剣で、反面とても楽しそうだ。もしかしたらゲームでもしているのかと思ったけれど、アキラにそれはなさそうだ。

 それにしても本当に楽しそう。まるで子供みたいな表情だ。どちらかというと眉間に皺が寄っていることが多い男なのに、何がそんなに楽しいのだろう。

 じっと見詰めていて、不意に気付く。彼はオリジナルを目指して小説を書いているんだっけ。もしかしてアキラは、オリジナルを目指すのがそんなに楽しいのだろうか。あたしは結構、何も持たない自分に自己嫌悪したりして、苦しんだと思うけど。

 あ、そうか。

 アキラは「小説を書く」ということでオリジナルを追い求めているんだ。私みたいに何も持たない訳じゃない。オリジナルを目指す方法を自分なりに探し出しているんだ。

 あたしはぼうっと、彼の背中を見詰めた。あたしと同世代の男の身体と根本的に違うように見えた。あんなに薄っぺらな身体じゃなくて、胸に厚みがあって、肩に筋肉がついていて逞しくて、そして何よりも匂いが違った。もしかしたらこれが男臭いってヤツなんだろうか。言ってしまえば、コロンとかで誤魔化さなくてはならないような、汗も含めたあいつの体臭って感じ。
 でも不思議とあたしはこの臭いが不快ではない。むしろ、彼のフェロモンみたいに感じてしまい、心地いい。

 彼を好きなんだと自覚して、あたしは彼の色々なことを知りたいと思った。だから、この小説を書く時の子供のような表情は、間違いなくあたしの宝物のひとつだろうと思う。格好いいだけじゃなくて、こんな可愛い姿も持っているなんて、すごく魅力的だと思う。