「……あ、美味しい」
「どうよ、結構やるだろ、俺」
 気持ちをぶつけ合うように愛し合った後、あいつは約束通りに手作りのイタリアンをご馳走してくれた。といっても、ジュノベーゼとカボチャの冷製スープ、チーズと香草のサラダだけなんだけど。

 何しろもう、深夜の2時を過ぎようとしているんだから仕方がない。それにあいつの手料理が食べられるなんて思っていなかったから、むしろ得した気分だった。

「ねえ、温泉ってどこに行くのさ?」
「こっからバイクで大体3時間ってとこかな。小さな宿場町なんだけど、いいとこなんだよ」
「ふーん、楽しみにしとこ」
 あたしはまだ身体から火照りが抜けてくれない。身体がもっともっとと、あいつを欲しがっている。

 自分の中にこんな淫乱な面が隠れていたなんて、ある意味で物凄くショックだった。でも反面であたしは信じられないほどに幸せだった。一時の、脆く儚い幸せなのだろうと思う。あいつはきっとあたしに同情して抱いてくれたのだろうし、あたしにはそんな価値なんかないのだから。
 でも、今だけは、今この瞬間だけは、あいつを独り占めできる。なら、あたしはそれだけでいい。

「お前……」
「あたしはお前じゃない。ヲトメだよ」
「そういや、名前訊いてなかったな。俺はアキラだ」
「ね、アキラ」
「あ?」
「……もう一回、抱いて」
 明日の朝まで、まだ時間は十分ある。だからあたしは、もっともっとアキラを求めよう。あたしを見詰めるその目は、やっぱり限りなく優しかった。