ああ、あたしってめちゃくちゃ穢い。あたしを二万円で買う汗臭くて三段腹で毛モジャのハゲ豚親父と何が違うんだろう。

 手首から流れている血の色が、腐れていくように澱んでいく。紅だったはずなのに、どんどんどす黒く変わっていく。

 ああ、そうか。あたしは自分が穢いことを知っていたんだ。このどす黒く澱んだ血を全部吐き出したくて、手首を切っていたんだ。
 でも、吐き出すことができるのだろうか。身体の血を全部吐き出してもきっと、あたしはどす黒く澱んだままじゃないのだろうか。

 不意に頬を伝う涙に気付く。
 あたしは穢い。どす黒く澱んでいてきっとこのまま腐れて死んでしまうんだ。いや、きっとあたしみたいな穢い女には、そういう結末がふさわしい。今までさんざん自分を汚す真似を繰り返してきたんだから、贅沢なことなんて考えちゃいけないんだ。

 あたしはもう一度カミソリを握る。
 もう、身体中、全部の血を吐き出してしまおう。この穢い血はきっと、もう二度と綺麗になることなんてないだろう。だから全部吐き出して、身体の中を空っぽにしよう。
 カミソリを手首に強く押し当てて、今までで一番強く引いた。感じたことのない激痛が走るが、それでも血は垂れる程度にしか流れない。酷い痛みに耐えながら、何度も何度もカミソリを引く。そのうち苛立ちを感じ始めて、自分でも訳が分からないほど強く何度もカミソリを引いた。

 不意に身体の中で「ブツリ」という音が響いた。その瞬間、あたしの左手の手首から噴水のように血が噴き出した。
 これできっと、あたしの中の穢い血は全部吐き出せる。そうしたらきっと、あたしみたいな女でもきっと――
 呆然とした意識の中、汗臭いハゲ親父の悲鳴が聞こえた気がした。でももうどうでもいい。何もかも、お金もハゲ親父もセックスも何もかも、どうでもいい。

 あたしはきっと、この穢い血を吐き出した時、変われる。
 あたしは乙女になるんだ。
 仮初でも、キレイな乙女に――