「お前、明日と明後日、付き合え」
 思い切り泣いてやっと落ち着いたあたしを見詰めながら、あいつは突然そう言った。あたしは戸惑いながら「どうして」と問う。するとあいつはニッと笑いながら、「温泉旅行に連れて行ってやるよ」と言い出した。

 あたしの事情を全く訊きもしない。それは冷たいからではなくて、あたしが話さないからなのだろう。あいつらしい優しさだと思った。

「あたし、一応バイトあるんだけど」
「バカヤロ、俺が女にオゴるなんざ滅多にねえんだから付き合えよ」

「あたしはそのバイトで生活してんのよ」
「うるせぇな、いいから付き合え。飯オゴる約束もしてたしな」

「それは別でしょ。ちゃんとオゴってよね」
「よし、じゃあ俺の手料理を食わせてやるから、家に来い」

「何よ、その無茶苦茶強引な誘い方。もう少しムードってもんがないの?」
「悪いな、甘い言葉なんざ知らねえよ」
 挑発し合うような言葉のやり取り。でも、あたしは笑っていられた。それはあたしにとってとても嬉しいことで、何よりもあいつに触れているという実感を与えてくれる。

 あたしはまだ腐れプッシーだけど、あいつはそんなこと、もしかしたら気にしていないのかもしれない。
 可愛い女じゃなくてごめんね。スタイルだって大したことないし、顔なんか自慢できるパーツひとつもないし。ファッションだって古着ばっかで女の子らしい格好じゃないし。色っぽさなんてカケラもない。

 あんたにはどう考えても見合わないよ。でも、それでもあたし、あんたに会いたかったんだ。あたしのオリジナルを探していたのも、あんたに会いたかったからなんだ。そんなことが伝わるとは思っていないけど、それでもあたし、一生懸命頑張ったんだよ。

「探してたんだよ、あんたのこと」
「飯をオゴって欲しくてか?」
「うん、そう」
「素直な女は可愛いぞぅ」
「だってオゴってくれるって言ったの、あんたじゃない」
「そうだったな」
 あいつがあたしに手を伸ばす。あたしはその手を握り締めて立ち上がる。もう、泣く必要なんかない。例えばこれがあいつの遊びだったとしても、後悔なんかしない。

 だってあたしは、こうしてもう一度出逢う為に、オリジナルを探していたんだから。

 あたしは隣を歩くあいつの横顔を見た。その横顔は悔しいほどに格好よかった。