「いらっしゃい。……あれ、また来たの?」
「うん、暇だったからさ」
 古着屋でのバイトも、始めてから二ヶ月が過ぎた。その間に、あたしはあたしとしてのケジメを付ける必要があった。

 まず高校を中退した。ただ古着屋でのバイトに行くようになって、あたしは高校の大切さに気付いた。あそこはただ無駄な勉強をする場所ではなくて、社会生活で必要な基礎知識を学ぶ場所だったのだ。先生や先輩と接することで学ぶ目上の人間への態度や言葉遣い、使うはずもない数学では社会生活で必要な計算力、漢字がマトモに書けなかったら書類どころか履歴書すら書けない。

「金もないくせに古着屋に来るなっつーの」
「逆だろ、金がないから古着屋に来るんだろ」
 あたしの前にいるこの男は、通っていた高校の一年先輩だ。客として何度か通ってくれるうちに、どうでもいいことを話すようになった。いつもにこにこと笑っていて、どこか憎めなくて反面どう見ても能天気な奴だ。

「なあ、もうすぐバイト上がりだろ、どっか遊び行こうぜ」
 最近になってこんな感じで誘われるようになった。あたしから見るとあんまりにも未完成過ぎて男として見ることができない。今のあたしが男として見ることができるのは、あいつ一人だった。

 あれから一度も会っていない。ご飯を食べに連れて行ってくれるという約束は果たされていないままだ。だけどあたしは別に不満には思っていない。だって今のあたしはまだフェイクで腐れプッシーのままだから。
 いつかオリジナルになれたら、またあいつに会えると信じている。

「バーガーだけどおごってやるよ」
「うは、あたしって安く見られてんのね」
「ば、ばかやろ、いち高校生にイタメシおごれる金なんかないって」
「そりゃそうか……」
 はっきり言ってこいつには興味なんかカケラもない。ただあたしも金はないから、バーガーをおごってもらえるのはものすごく助かる。何しろ家に帰っても、食事が用意してあることなんてまずないから。

「じゃあ牛丼おごってくれるんなら遊び行く」
「おっけー、じゃあ外で待ってるな」
 まさかその時には、この男とあんなことになるとは思っていなかった。そしてそれは、あたしがまだフェイクで腐れプッシーだという証明になってしまった。