「もうひとつ、俺がドラッグを嫌いな理由があるんだ。訊きたいか」
「うん」
「俺が好きなジミヘンを殺したからだよ」
 彼のバイクの後部座席に座り、ヘルメットを被った時に、彼はそう告げて楽しげに笑った。

 よかった、また笑ってくれて。

 彼は彼できっと色々なことを背負っているのだろう。あたしみたいなガキには想像も付かないような何かを経験しているだろうし、それはあたしが安易に踏み込んでいいところではないはずだ。それでも彼に触れるというのならば、あたしは覚悟を決めなくてはならない。彼が経験した苦しみも悲しみも、痛みすらも受け止めると。

「お前、大体この辺にいんだろ」
「うん、多分」
「今度飯おごってやるよ。嫌な話聞いてくれてありがとな」
「別に、嫌じゃなかったし」
 彼はヘルメットを被るとバイクのエンジンを掛けた。そしてあっさりとアクセルを開けて轟然とバイクを駆けさせる。

 風があたしと彼を包む。夜の街は光が瞬いていて、それはあたしと彼を包んでくれる。

 あたしには理解できないことが多すぎてどうすることもできないけど、彼が目指しているオリジナルがどんな想いの中で作られてきたのか、少しだけ分かったように思った。
 光と闇の中を疾走するバイク。あたしはただ彼のあたたかさを心に刻んだ。