何時間そうしていたのか、それは分からない。繁華街の裏路地ではなかったのは運がよかった。身柄をさらわれたりしていないだけマシだ。

 いつもあいつらとたむろっていた廃工場にはもう誰もいない。あいつらと会うことはもう二度とないだろう。あいつらはきっとこれからもチープな金で親父に買われて、フェイクのまま性質の悪い病気か何かを感染されたり非合法薬物に手を出して死ぬんだろう。

 それがあいつらの生き方なのだから、あたしは何も言うつもりはない。生きるのも死ぬのも、あいつらの自由だから。

 ゆっくりと体を起こす。後頭部と脇腹が激しく痛んだ。脇腹はもしかすると肋骨がイカレているかも知れない。
 それはそれでいい。これがあいつらの言う裏切りに対する罰なのだろう。
 口の端から溢れている血を拳で拭った。
 ゆっくりと立ち上がると、あたしは歩き始めた。



「いらっしゃいませ」
 バイトに選んだのは知り合いの古着屋の店員。店主のにいちゃんはあたしの家庭の事情を知っているからなのか、苦しいのに雇ってくれた。

 最初、あたしはお客さんに笑顔を向けるのが苦手だった。まるで媚を売っているみたいで嫌だった。だけどそれじゃ体を売って金を楽に稼いでいた頃と何も変わらない。そう考え直して、あたしはあたしなりの笑顔を作ってみた。

 にいちゃんは「いい笑顔だ」と笑ってくれた。
 脇腹の痛みはずっと引かず、時々元友達の笑顔が脳裏を過ぎる。だけど、あたしはオリジナルになるんだ。なってまた、あいつに出逢うんだ。
 まだオリジナルって何なのか分からないけれど、あいつがそうしていたように、あたしも真っ直ぐに歩くんだ。

 あいつにまた出会うまで、あたしは仮初でも乙女でいよう。