航太くんは何か言いたげな顔つきで私を見ていたけれど、

「そっか。」

呟いて、ビールに手をのばした。


気まずい。
微妙な空気が二人の間に流れている。

こういう時は何か別の話題を‥

「あ!」

航太くんがお花屋さんでダンボールを抱える映像が浮かんで、私は声を出す。

「航太くんって杉野さんと知り合いなの?」

「杉野?」

「私のマンションの近くにあるお花屋さんの‥」

「あぁ。
‥中川さん、アイツと知り合いなんだ?」

航太くんの表情が険しくなる。

あれ、変なこと言ったかな。

二人、すごく仲良さそうだったよね?

「たまにあそこでお花買うから。」

「ふーん」

「航太くんは?この間一緒にお店にいるとこ見たけど‥」

「えっ!」

驚いたらしい航太くんの腕が机にぶつかり、ガタッと音がなる。

なんか慌ててる?

訊かない方がよかったのかな‥。

でもなんとなく気になってたのも事実だし‥。

「訊いたらまずかった?」

不安になって上目遣いにちらりと見上げた。

航太くんは、落ちかけた割り箸を元の位置に戻し、咳払いをする。

「いや、アイツとは‥ガキの頃からの付き合いで。」

「幼なじみなんだ?」

「まぁそんなとこ。」

「へぇー!こんなつながりがあったなんて‥世間は狭いねー!」

今度お店に行ったら、このこと話してみようかな。

杉野さんがぐっと身近な人になった気がして、嬉しくなる。


「中川さん。」

名前を呼ばれて顔を上げると、航太くんは不機嫌な様子だ。

ビールをぐいっと一口飲むと、ふてくされたような声で言った。

「俺とのこと、アイツには黙ってて。」