終電が近い時間になり、新婚の徹平はさすがに帰ることになった。

徹平が帰るなら、と琢磨も腰をあげる。
みちるは泊まっていくことになり、片付けは女性陣で請け負うことにした。

寒いからここでいい、という言葉に甘え、二人を玄関先で送った。





「今日はホントにごめんね。」


キッチンに二人並んで立ち、私が洗い、みちるが拭く、と作業を分担している。
油がついて落ちにくいお皿を、スポンジで強めにこすった。


「綾が徹平のこと忘れるのには、次の恋がいいんじゃないかって思って‥。」


「わかってる。ありがと、みちる。」


自分でもそうできたらいいと思う。


徹平を忘れて、誰か別の人を好きになれたら。

それができたらどれだけ楽だろう。



「好きになろうと思ってなれるわけじゃないしね。
綾は綾のペースで、次の恋を探すのがいいよ。」

「・・・うん。」


「恋はするものじゃなくて落ちるものだ、って聞いたことあるけど、あれ、あながち間違ってないと思うんだよね」


「そう?
私は一緒にいるうちにだんだん好きになる方だから、そういうのないなぁ~」


「なんとも思ってなかったはずなのに、気付けば恋に落ちてたりするのかも・・・」


布巾とお皿をカウンターに置いて、みちるがため息をついた。


「何?なんか急に詩人みたいなこと言っちゃって!」


肘でみちるを小突く。

みちるは、なんだか神妙な面持ちのまま続けた。


「きっとそうなんだよ。ある日気付いたら好きになってるの。

でもそれって実は、本当は、もっと昔から恋に落ちてたのかも。」