沈黙。


えーと‥

なんだろう。

なんでこうなったんだっけ?




頭の中をいろんなことが駆け巡り、混乱している。



完全に固まって、動けないでいると、


ふ、と腕の中から解放された。



「‥わりぃ。」



頭の上で、航太くんの声がした。


顔を上げるタイミングが見つからなくて、俯いたまま一歩後ずさった。



こういう時ってどうしたらいいの?


だってこんなの、ドラマでしか見たことない。



パンプスの爪先を見つめて、深呼吸をする。



落ち着け。


なんだっけ?

何するのよ!とかって言って、平手打ちとか?


‥それじゃ本気でドラマの展開だ。


気にしてませんって顔で立ち去る?


いや、今の私にはそんな演技はできそうにもない。




「‥何があったか知らねぇけど。」


恐る恐る顔をあげると、航太くんは斜め下を見ていた。


視線が合わないことにほっとして、航太くんを見る。




「なんかほっとけない。」




つらそうな、苦しそうな顔をして、航太くんは続けた。



「結婚式のときも、そんな顔してただろ。

泣きたいの隠して笑ってた。」







驚いた。



あの時、そんな風に思ってたの‥?






「あ゛ー‥っ!」



突然航太くんがうめいた。



「何やってんだ、俺。」


航太くんは目を瞑り、ため息をついた。


そのまま手を額にあて、髪の毛をぐしゃぐしゃと掻く。

鼻筋の通った綺麗な横顔が見えた。





何も言えないままその仕草を見つめていると、

航太くんの視線がこちらを向く。






「俺、やっぱり中川さんが好きなのかも。」





目元にくしゃりと皺がよって、

あの犬みたいな笑顔で笑った。