じゃり‥とアスファルトを踏む音がして、航太くんがこちらへやってくる。


「飲み会は?」


泣いていたことがバレないように、顔を伏せた。


「あ‥
ちょっと買い出しに‥」


「買い出しにきて、なんで泣くわけ?」


もしかして見られてた!?



「ちょっと目にゴミが入って、取ってたの!」


俯いたまま、目をこする。



急に左手首を捕まれて、持ち上げられる。


驚いて顔をあげると、航太くんの眼差しとぶつかった。




「何かあった?」


犬みたい、と思っていた優しげな目元が、今は険しい。



きっと化粧はぼろぼろだ。

目にゴミが入ったなんて、嘘だとわかったはず。




何も言えず、視線を外すと、
手首を握られる力が強くなった。


「なぁ‥

「なんでもないの。」


視線を戻し、笑顔をつくる。


手首の力が弱まったのを感じ、私は航太くんの手をゆっくりと払う。



「ホントに。
大丈夫だから。」



航太くんは黙って私を見ている。



「航太くんこそ、どうしたの?やっぱりこの辺に住んでるんだ?」


笑顔をつくったまま、精一杯の明るい声で言う。


「それならそうと言ってくれたらよかったのに。
あ、私ジュース買いに来たんだった!
行かなきゃ!」



思いつく言葉を並べ立て、私はコンビニへと向きを変えた。



数歩あるき出したその時。




ぐっと強い力で右腕を引かれ、体のバランスが崩れる。



倒れる‥そう思った次の瞬間、暖かい感触に抱きとめられた。




目の前には黒いジャケットと、その間からのぞくシャツ。


ふわりと立ち込めた、香水と、かすかな男の人の匂いに、息をのんだ。



「ぁ‥」



何か言おうと思うのに、声にならない。



背中にゆっくりと腕が回って、優しく抱きしめられたのがわかった。