「今日はありがとう」
「また新居に遊びにきてね。」
新郎新婦が並んで見送りをしている。
二人が一緒にいるのを見るのにも慣れたと思ったけど、
いざ二人を目の前にすると、うまく笑えない。
あそこにいたかったのに。
徹平の隣にいるのは私でありたかったのに。
「綾!」
不意に呼ばれて、視線を動かす。
「今日はありがとな。」
大好きな徹平の笑顔。
ちょっと高めの声も、少し癖のある茶色い猫っ毛も、くりっと丸い眼も。
全部大好きだったのに。
「今度、遊びに来いよ?」
目の前に、二人の新居の住所が印刷されたカードが差し出される。
長い指。
ちょっと筋ばった手。
‥やばい、泣きそう―‥
喉がぎゅっとつまって、同時に鼻の奥がツンとした。
「え、お前一軒家かよ!カネモ!」
受け取った私にかぶさるように、カードを覗き込む人影。
「琢磨!」
「最初はさぁ、ちっちゃいマンションとかに住むもんじゃねーの?これだから高給取りは‥」
ぶちぶち言いながら私の手からカードを奪う。
「お前と違って俺はこつこつ貯金してたんだよ!」
徹平は苦笑しながら、新しいカードを私の手にのせた。
「近いうちにみんなで来いよ。」
待ってるからさ、と笑った徹平に、私はうまく笑えたのだろうか。