次の日。

朝一番に宮本さんに見積書を持っていく。

「宮本さん、チェックお願いします」

「ん。」

ペラペラと捲ってチェックしつつ

「ありがとな。結構時間かかっただろ」

「あ、いえ…そんなでもないです」

これは本当。でも、数字が延々と並んでる表計算が苦手な私は、ちょっと眼精疲労気味だった。

「ふーん。…よし、ちょっとこれで話つけてくるわ」

そう言って、書類を封筒に入れて立ち上がる。

「あ、いってらっしゃいです」

営業事務の私は、毎日外回りの人を送り出す。
でも、「いってらっしゃいませ」は気恥ずかしくて言えなくて、こんな言い方でお茶を濁している。


「おう」

言いながら、ホワイトボードに今からの予定を書き込み、最後に「直帰」と書いて宮本さんはオフィスを出ていった。


(…直帰、かぁ。)


今日はもう社に戻らない。

まぁ、最後のアポが7時だから、普通なんだけど。


(…なんか…寂しい…)


そう思う私は馬鹿だ。


宮本さんは「白羽の矢」を立てただけの、仮の想い人なのに。