カタカタカタ…

キーボードを打つ音が響く。


残業してでも手を付けて良かった。

もともとギリギリで出した見積りだったから、過去の見積りを流用して出す、なんて裏技は使えなくて、全部手打ちで打ち込まなきゃいけない。


明日の朝やってたんじゃ間に合わなかったかも。


「…よし!」


打ち込みが終わって、チェックに入る。


その時、バイブにしてあった携帯が鳴り出した。


「んー…」

パソコンの画面から、開いた携帯に視線を移す。

「…誰?」

知らない番号からの着信だった。

「…はい」

名前は言わないで電話を取る。

「あ、俺俺」

誰。…ってこの声…

「宮本さん?!」

「お。よくわかったな」

「え!私、番号教えましたっけ…?」

「ん?教えてない。お前の同期の木村に聞いたの」

…なら、とりあえず名乗ってくださいよ…。なんて文句は飲み込んで。

「…どうしたんですか?」

「終わった?」

「はい?」

「だから、見積り。終わった?」

…なんで知ってるの?残業してること。

「木村の彼女。カナちゃん?だっけ。お前、友達だろ?ドタキャンされた~って喜村んとこに電話来てた」

「あの。考えてること読むのやめてください…」

思わずそう言うと、電話の向こうからはおしころした笑い声が聞こえる。

カナは高校の友達。同期の木村をこないだ紹介して、付き合い始めたばかり。

確かにドタキャンしたけど、そんなの私とカナの間では日常茶飯事だから、その話を言い訳に木村と会いたかっただけだろう。

「で?」

「…終わりました、今」

ついつい話し方がぶっきらぼうになる。

「おー。さんきゅ。いや~実はさ、先方から電話が来て、明日の朝イチって言われてさ~。出来てるならいいや。さんきゅーな!じゃあ、また明日」

「て、え、宮本さん?!」

ツー…ツー…

切れてる…。


明日の朝イチ…。
や、やってて良かった…!
朝からじゃ他の仕事全部後回しにしても終わらないとこだった。


「…言うの遅すぎです…」

もう何も言わない携帯の画面にぽつり、呟いて、パタンと閉じた。