「白羽の矢」を立てて数日。


作戦はうまくいっていた。


世間はちょうどクリスマス。

本庄さんも彼女にプレゼントをあげる。
興味なんかなくても、廊下の真ん中で話されたら嫌でも耳につく。


「俺、今年はどうしよっかなぁ。本庄は?」

「こないだ誕生日で花束あげたんだよなぁ…」

「花束かよ!アクセサリーとかあげろよ」

「いや、指環にしようかと思ったんだけどサイズが…」

「そーゆうのは、自分の指とこう、比べてさぁ。さりげなーく聞き出すんだよ!」


今時花束…。実際貰ったらもって帰るの大変そう…とか思ってみたり。

なんていうか、不器用な人だなぁ、本庄さん。


たった数日の間にそんなことを思える自分にびっくりする。

でも…これでいいんだ…。



そんな風に思いながら部署に戻ると、宮本さんが待っていた。

「山崎~。遅いよお前。」

私の机の前で手招きする宮本さん。

「え!私ですか?」

私、宮本さんの仕事、今は持ってないはずなんだけど…。
そう思いながら小走りに机まで行く。

「そー、お前。山崎って他にいないだろ」

そう言いながら、手に持った資料を手渡してくる。

「この見積り、あと5%ずつ引いてもっかい出して」

見ると、先週ギリギリの値段で出した見積り。

「宮本さん…これ、ギリギリですよ?」

恐る恐るそう聞くと、

「ああ、いいの。ライバル社がうちより安く見積り出してんだよ。5%なら儲け出るから平気」

あっさりとそう答える。

「明日の午後イチ。いける?」

「はい。わかりました」

午後なら余裕だ。
でも、今から試算だけでもやっとこうかな…。