「ありがとうございました!!」

大急ぎでタクシーを降りようとした私に、運転手さんが声をかけた。


「大丈夫ですか? この辺は人があまりいないので、女性一人では危ないですよ?」

心配そうな表情を浮かべながら、そう言ってくれた運転手さんの言葉に、一瞬動きが止まる。


確かに、人気はない。

暗いし、何かあって大きな声を出しても、きっと誰にも届かない。


――だけど。

「ありがとうざいます。でも、行かないといけないので」

稜君は、ここにいるはず。


運転手さんにもう一度お礼をしてからタクシーを降りた私は、携帯を取り出し耳に当てた。

だけど耳に届くのは、秀君と付き合っていた頃に嫌とい言う程聞いた、音声アナウンスばかり。


――ここじゃない?


一瞬、不安が胸を過ぎったけれど……。

次の瞬間、瞳に映ったその情景に、私の胸は潰れそうなくらいギューッとしめつけられたんだ。


目の前には、空を見上げて立ち尽くす、稜君の姿。


「……っ」

声をかけたいのに、まるで金縛りにあったみたいに体が動かない。

暗闇に溶け込んでしまいそうな彼の姿を、ただ呆然と見つめる事しか出来ない私の頭上を、大きな飛行機が轟音を響かせながら飛んで行く。