「稜……君?」

その顔が、あまりにも悲しそうで、今にも泣き出しそうで。

気付くと、その名前を呼んでいた。

そんな私にゆっくりと視線を移した稜君は、ほんの少しだけ口元に笑みを浮かべると、言ったんだ。


「大丈夫だよ」


――“大丈夫”。

それはまるで、自分に言い聞かせるように放たれた言葉。

さっきから、胸がドクドクと嫌な音を立てている。


「何かあったの?」

“稜君から話してくれるまでは”――そう思っていたのに。


“一人でいるのが嫌だった”

“ちょっとだけ一緒にいて”

そんな言葉を無理やり浮かべた笑顔で口にする彼を、私はもう放っておけなかった。


「……っ」

私の言葉に、稜君がハッとして息を呑むのがわかった。


次の瞬間、天井を仰いだ彼に、

“余計なこと聞いて、ごめん”

そう口にしようとした。


だって、私は航太君みたいに稜君と付き合いが長いわけでも、おねぇーみたいに彼の心の支えなわけでもない。

こんなの自己満足のお節介に過ぎない。

だけどそんな私の目の前で、稜君は上を向いたまま大きく息を吐き出して、視線をゆっくり私に向ける。


そして、静かに口を開いたんだ。


「お祭りの日に、金魚の話をしたの覚えてる?」

「う、うん」

「ばーちゃん」

「え?」

「危ないんだって」

「――……っ」

ポツポツと、途切れ途切れの言葉が、他の人だったら上手く繋げることが出来なかったかもしれない。

だけどあの日、稜君の話を聞いていた私は、一瞬でその内容を理解した。

理解した途端、口元に当てた自分の手が、無意識にカタカタと震え出す。