「さて。何がいい~?」
おねぇーと航太君がいなくなって、少し広くなった部屋の中、冷蔵庫のドアを開けたまま、稜君が私の方を振り返った。
「ん~、何でもいいなぁ。稜君は?」
そう聞いた私に、彼から返ってきたのは思いもよらない返事。
「あー……。俺は、お酒はいいや!」
「へっ?」
“呑みたい気分”――そう言っていた稜君だったから、彼からの返事に素っ頓狂な声を上げてしまった。
「呑まないの?」
「ごめんね。ホントは、ちょっと一人で居るのが嫌だっただけかも」
笑顔を浮かべているはずの稜君の顔は、何だか辛そうで、私は言葉に詰まってしまう。
そんな私の前に、ビールと日本酒、チューハイと赤ワインをポンポン並べた稜君は、
「美月ちゃんは呑みながらでいいから、ちょっとだけ一緒にいて」
最後にテーブルにグラスを置くと、私の横にストンと腰を下ろした。
ここまでくると、明らかに元気がなく思える稜君に、何か言葉をかけたいのに……。
どんな言葉をかけたらいいのかが分らない。
「……」
口を開くと“何かあったの?”と、聞いてしまいそうになるから、ただひたすらに、稜君が口を開くのを待っていた。
並んで座った正面には、カーテンが開いたままの窓があって、街の灯りで星は見えないけれど、大きな月だけがぽっかり浮かんでいた。
そういえば、明日は満月だなぁ……。
浮かぶ月に、ぼんやりとそんな事を考える私に、彼が静かに口を開いたのはどれくらいの時間が経ってからだったのだろう。
「満月の日って、たくさん命が産まれるんだって」
「……え?」
突然の言葉に驚いて稜君に顔を向けると、彼も私と同じように大きな月を見つめていた。
「だけど、亡くなる人も多いんだって」
まるで私の視線に気付いていないかのように、窓の外の月をボーっと眺める稜君のその横顔に息を呑む。