結局理由はわからないまま。
でも、稜君が話さないのであれば、こっちからは聞かないという航太君の考えには私も賛成だ。
だから、何も聞かず、いつも通りの雰囲気で楽しく夜ゴハンを食べた。
「明後日の試合のFWって、航太と誰っぽいー?」
「あー、誰だろ。鈴本さんあたりじゃねぇの?」
ゴハンを食べ終わって、おねぇーの隣で食器洗いをする私の目の前では、男性陣が明後日のA代表の試合の話をしている。
それを聞いていると、やっぱり二人は“日本代表”なんだなぁ……なんて、今更ながらしみじみ思うけど。
いつまで経っても、それはやっぱり不思議な感じ。
あのテレビの中でしか観られなかった人が、こうして目の前にいて、片方は自分の姉の旦那さんで、もう片方は……私の好きな人。
「……」
うん。
自分の中で“好きな人”と、そう思うだけでも何故か緊張してしまう。
そんなドキドキの最中《さなか》。
「そう言えば、美青ちゃん今日はお酒呑まないの?」
航太君との話が一段落したのか、稜君がクリクリとした瞳を急にこっちに向けるから、一人で勝手にドキッとしてしまう。
「あー……。あはは」
隣で何故か誤魔化し笑いをするおねぇーに、訝しげな視線を送れば、航太君がちょっと呆れたように声をかける。
「この前の自分の失態を反省して、禁酒中なんだよな?」
「えぇー! いいじゃんっ! せっかく楽しいのにー」
唇をほんの少し尖らせながら笑う稜君は、やっぱりいつもと変わりない様子に見えたんだけど……。
「なーんだ! 今日は呑みたい気分だったのになぁ」
感情を誤魔化したような笑顔を浮かべながら、そんな言葉を口にしたんだ。
その違和感に、私も気付いてしまうくらいだから、きっと航太君もおねぇーも気が付いたはず。