“俺の勝手で、美月ちゃんを縛るわけにいかない”
イギリスに行く事が決まった時に言ってくれた、稜君の言葉が蘇る。
「ごめんなさい……!!」
「美月ちゃん」
まるで何かを哀願するように、震える声で同じ言葉を繰り返す事しか出来ない私は、その次に続く、稜君の言葉を聞くのが怖くて……。
「ごめん少し疲れてるみたい。今日は、切るね」
まるで逃げるように、返事も待たずに通話を終了させて携帯をギュッと握った。
「私、なにを……っ」
電話を切った手が、震えている。
ううん。
手だけじゃなくて、身体全部と心もだ。
追い詰められた自分の弱さに、愕然とした。
あんなにも彼の力になりたいって、そう思っていたはずなのに、追い詰められた瞬間、無意識に優先したのは自分の想いだった。
「稜君、ごめんなさい……っ」
携帯を握りしめて、届かないとわかっているそんな言葉を口にする。
――それなのに。
こんな時でも、卑怯な私は稜君からの電話を待っていて、
“本当は傍にいて欲しい”
そう言ってくれるのを待っているんだ。
だけどその夜、いつまで経っても寝付けずにいる私の手に握りしめられている携帯が、稜君からの着信を知らせる事はなかった。