後になって思えば、本当にどうかしていたんだ。

思い通りにいかない仕事探しと、強くなった距離への不安。

届かない想いが、心の中にどんどん、どんどん積もっていって……。


その時の私は、“大丈夫”――そう言い続ける稜君に、拒絶された気さえしていたんだ。

そしてその想いが、形を変え、言葉となって口から零れ出てしまう。


「ねえ」

「うん?」

「こんな時に……。こんな時に傍にいられない存在って、なに?」

「――え?」

「稜君にとって、私は何?」

「美月ちゃん?」


“自分の気持ちに、嘘は吐かないように!”

こんな時、おねぇーだったら。

もっと冷静になれるのかな?


こんな事、本当は言いたくないのに。

一度口から出てしまった言葉を取り消す事は、もう出来ない……。


「こんな時に傍にいられない存在なんて恋人じゃない」

「……え?」

「私は、必要ないんじゃない?」


殆ど、無意識だった。


「美月ちゃん!!」

「……っ」

その言葉を口にした瞬間、まるで怒鳴るように、稜君が私の名前を呼んだ。

初めて聞くその声にハッとして、それと同時に鼓動がいやに速くなる。


「美月ちゃん?」

私今、なんて言った……?

静かな稜君の声に、身体がカタカタと震え出す。


「ごめん、なさい」

「……」

「ごめん、稜君」

震える声で、今更すぎる言葉を繰り返す私の耳に、稜君の小さな溜め息が聞こえた。