稜君が悪いんじゃない。
稜君のそれは、ただのきっかけに過ぎなかった。
目の前のテレビ画面に映されているのは、風で巻き上がり、どんどん広がっていく白い煙と、真っ赤に染まったスタンド。
フーリガンと、一部のサポーターによって染められたその赤色は、スタンドの半分を飲み込んで……。
日本では見る事のないその光景に、思わず息を呑んだ。
これから最終節に差し掛かっていく、プレミアリーグの盛り上がりは物凄い。
しかもこの試合は、“伝統の一戦”と呼ばれている、対マンチェスター戦。
最近は、稜君だけでなく、チーム全体が崩れ始めていた事に、サポーターの不満は爆発寸前だったのだと思う。
事の発端は、ロスタイムの最後のプレーになるだろう、稜君のコーナーキックだった。
ここで決めれば、同点に持ち込めるという場面。
大盛り上がりするサポーターの歓声が、スタジアムに大きく響く。
その中で、ゆっくりとボールをセットした稜君は、空を見上げて大きく息を吐き出した。
少しの間を取って蹴り出したボール。
それは、明らかにミスキックだった。
ゴールを超え、ボールがラインを割った瞬間、響き渡ったレフリーのホイッスル。
サポーターから落胆の大きな溜め息が漏れる中、コーナーで腰に手を当て、天を仰ぐ稜君に、液体の入ったペットボトルが投げつけられた。
それとほぼ同時に、ピッチ内にどんどん投げ込まれる発煙筒。
スタンドでは、真っ赤な灯りが焚かれ、スタジアムはみるみるうちに煙で真っ白になっていく。
事態を収めようとするスタッフと、警備スタッフに守られながら、ピッチを後にする選手達。