一体、何が。

「……っ」

杉本さんに挨拶もせず応接室を飛び出すと、震える膝に力を込めて会社を出て、大通りですぐにタクシーを拾った。


「取りあえず、I駅の方に……出来るだけ急いでお願いします!」

さっきから、ドクドクと脈打つ心臓が、いくら深呼吸をしても治まらない――。


震える指で携帯を操作して、スポーツニュースを確認するけれど、そこには前半戦の途中経過しか載っていない。

すぐに画面を切り替えて、着歴から稜君に電話をかける。


「……っ」

お願い……出て!!

杉本さんの言葉で、どうして自分がここまで動揺しているかはわからない。

でも、胸騒ぎがするんだ。


鳴り続ける呼び出し音。

腕時計に視線を落とすと、試合は少し前に終わっているはずの時間。


「大丈夫ですか? ご気分でも……」

「え?」

急にかけられた運転手さんの声に、ハッとして顔を上げる。


「お顔が真っ青だったものですから。もし車酔いでしたら、一度お止めしますか?」

「大丈夫……です」

「そうですか」

「すみません、もう少し急げますか?」

とにかく、早く家に帰らないと。