ゴチャゴチャと考えている私の頭の中の声が、まるで聞こえたかのように、目の前の杉本さんは、私を見上げるようにして口元に笑みを浮かべている。

「別に何かしてやろうとかじゃないから、安心して」

その言葉を、私は信用していいのだろうか?

混乱している頭のままでは、正常な判断をする自信もなくて、どう切り返そうかと考えるけれど、焦るばかりでいい考えも浮かばない。

ギュッと握りしめた手が、小さく震える。


「あの時、どっかで見た事ある顔だなぁとは思ったんだけど」

「……」

「こないだ珍しくサッカーの試合観てさぁ。俺、思わず指差して大声出しちゃったよ」

そう言いながら、クスクスと笑う。

やっぱり、この人の感情は読み取りにくい。


「あの、仕事のお話では?」

「あぁ。いや、あんまりボーっとしないようにねっていうだけの話」

私の問いかけに、わざとらしく目を大きくした杉本さんの真意は未だに分からない。


「すみません。以後、気を付けます」

「うん。お願いね」

「はい。あの……もう上がってもいいでしょうか?」

本来、こんな事を言える立場ではないけれど、やっぱりこの人は苦手だ。

悔しいけれど、今は下手に関わらない方がいい。

そんな思いから、視線を逸らして俯く私に、杉本さんは――

「うん。早く帰った方がいいかもね」

そんな、よく解らない言葉を落とした。


「……え?」

「彼、大変な事になってるみたいだよ?」

「大変な……こと?」

「うん。今日試合でしょ?」


――そんなの知ってる。

仕事でライブでは観られないから、録画をして……。


「早く帰った方がいい」

もう一度繰り返された杉本さんの言葉に、心臓が痛いくらい激しく騒ぎ始める。