「取りあえず座って」

「……はい」

仕事が終わり、みんなが帰った後、小さな応接室に杉本さんと向かい合って座る。

よく考えたら、杉本さんと二人きりになるのはあの時の――稜君のマンションでの一件以来かもしれない。


何を言われるのだろう?

今回は自分の非に自覚あるだけに、ある程度、覚悟はしてきたけれど。

それでも、どうしてもドキドキしてしまう。


暫くの沈黙のあと、ゆっくりと口を開いた杉本さんの気配に、私は体を強ばらせた。


――だけど。

私の耳に届いた杉本さんの言葉は……

「川崎 稜」

そんな、どう考えても仕事とは結び付くはずもない言葉だった。


ドクン。

胸が大きく跳ね上がるのと同時に、背筋にスーッと、冷たい物が流れ落ちていく気がした。

その言葉の意図も解らず、何も言えないまま息を呑む私を真っ直ぐ見据えたまま、杉本さんは再び口を開く。


「佐々木さんが最近ボーっとしてるのは、彼の不調と関係あるの?」

正直すぎる心臓がまた大きく音を立てて、瞬時にカラカラになった喉に不快感を覚える。


「何の……事でしょうか?」

私はどう答えればいい?

そもそも、この質問の意図は?