お風呂から出て身支度を整えた私達は、ポーキーに“行ってきます”の挨拶をした後、空港に向かうタクシーに乗り込んだ。


私は会社に直行するから、会社のブランドのスーツを身に纏って、手にはそれに合わせた黒いカバン。

でも、稜君は……ジャージとパーカー姿。

今更ながら、彼が荷物を何も持っていない事に気が付いた。


「稜君、そのまま帰るの? 他の荷物は?」

稜君はファッション雑誌なんかに取り上げられるくらいのオシャレさんなのに。

珍しいその装いに、首を傾げた私を見て、稜君は笑って言った。


「急いで出てきたから、パスポートとお財布と携帯と……あと、カギしか持って来てないよー」

「……え」

「荷造りしてる時間なんて、勿体なくて!」

その一言に、果てしない愛情を感じてしまうのは仕方がない。


「稜君」

「なーに?」

「来月、また逢えるの楽しみだね」

「うん。でも美月ちゃんが、ちゃんと飛行機乗れるかが今から心配でしょうがないよー」

キラキラした瞳を見上げながら、涙目で微笑む私に、稜君はそんな風におどけてみせたんだ。