――だけど。

「……え?」

一度私をギュッと抱きしめた稜君は、そのまま体をそっと離す。


「りょう……君?」

「うん」

熱を帯びて潤んでいるだろう瞳で見上げる私を、優しい瞳で見下ろした稜君は、小さく溜め息を吐いて腕時計に目線を落とした。


「あと、三時間」

「え?」

ポツリと落とされた言葉の意味がわからなくて、戸惑っていると――

「四時間後には、空港に戻らないといけない」

彼は淋しそうに笑って、もう一度私の体を、その腕の中に閉じ込めた。


――四時間。

私と過ごす、その数時間の為に、十二時間もかけて逢いに来てくれたの?


……稜君。

私って、どれだけ幸せ者なんだろう。


「ありがとう」

「……」

「嬉しい。泣いちゃうくらい嬉しい」

見上げた先の稜君は、一瞬驚いたように目を見開いたけれど、次の瞬間ふわっと優しく微笑み、まるで安堵の溜め息を漏らすように言ったんだ。


「来てよかった」

お互いの体温を確かめるように、言葉も発せずしらばく抱きしめ合った後、私は笑いながら口を開いた。


「いっつも、稜君に玄関で襲われてる気がする」

クスクス笑う私から体を離した稜君は、不機嫌そうに頬を膨らませる。


「襲ってないじゃん!……まだ」

「“まだ”って。襲う予定なんだ」

冗談交じりにまた笑った私だったけれど、目の前の稜君は、困ってしまうくらい魅力的な笑顔を返しながら私の顔を覗き込んだ。


「うん。今日はたっぷり充電させてもらうつもりだけどー?」

「……っ」

「取りあえず、向こう行こうか」

カッと顔を赤くした私を見て、満足そうな表情を浮かべた稜君は、靴を脱ぐと、リビングに向かって廊下を歩き出す。