「それはさぁ」

「んー?」

「その杉本って人、美月のことを狙ってんじゃないの?」

「へ? あー、ないないないない。それはない」

私はベッドの上でゴロゴロしたまま、床に敷いたラグの上に座る結衣に頭を振った。


「何でー? 明らかに狙ってんじゃん」

「どこが」

「普通、プライベートの携帯って、わざわざ教えないでしょ!!」

「そうかなぁー? ほら、私は新人だし。気ぃ遣ってくれたんじゃないの?」

「えぇー……」

私の回答に、不満げに眉間に皺を寄せた結衣。

だけど、すぐに恋愛に結び付けたがる結衣の言うことを全て間に受けていたら、大勘違い女になってしまう。


「その事、稜君には言ったの?」

「何で言うのよ」

「は? 言わないの?」

「言わないよー。だって、別に深い意味はないし。そもそも杉本マネージャーは上司だよ?」

「もー!! 恋愛には上司も部下もないのっっ!! 好きになっちゃったら……もうダメなのー!!」


これはもしや。


「結衣、彼氏に振られた?」

「……うるさい!!」

どうやら図星を付かれたらしい、ヒステリー結衣は、ひとしきり頭を掻きむしったあと、テーブルにコテンと頭をもたげた。


「社内恋愛なんて、するもんじゃないね。もう、仕事やりづらいったらないよ」

「そっかぁ。社内恋愛って、今まで一回もないからなぁ……」

何か言葉をかけたいのに、気持ちを楽にしてあげられる言葉が見当たらない。


「あんたはモテるからね。どこでも男が見つかるんだろうよ!!」

「はぁ!? モテた事なんてないでしょ!? 自分の方が絶え間なく彼氏いるくせに!!」

私の言葉に、奇声を発しながら、また頭を掻きむしった結衣だったけど……。

急に真面目な顔になって、溜め息混じりに言ったんだ。


「でも、遠距離なんだから、本当に気を付けないと」

「え?」

「ちょっとの誤解でも、修復出来なくなって、取り返しがつかなくなる時もあるからね」