「……かも、しれませんね」

動揺を隠すようにそう言った私を見て、また楽しそうに笑った杉本マネージャーは、大きな手を私の頭からスッと離した。


「まぁ、あんまり無理すんなよ? 何か困った事あったら、いつでも言って」

「はい。ありがとうございます」

戸惑いながらも頷く私を見た杉本マネージャーは、そのまま胸ポケットの名刺ケースから名刺を一枚取り出して……。


「これ」

裏にサラサラと何かを書き込んで、私の前に差し出した。


「裏に、プライベートの携帯書いてあるから。何かあったら、いつでも連絡して」

「……」

えっと?

これは一体……。


杉本マネージャーの一連の行動に、一瞬止まって目を瞬ばたかせた私。

そんな私を見て、クスッと笑った彼は、私の手をそっと掴んで、その上に名刺をポンと乗せた。


「じゃー、そろそろ戻るから」

「あ……はい」

歯切れの悪い返事に「頑張れよー」と声をかけた杉本さんは、手をヒラヒラ振って出て行った。


えっと、何だろう。

一体、何をしに来たんだろう?

自分の手の平の上にある、その名刺を裏返すと……。

“080-××××-△△△△”

そこには確かに、会社の物とは違う携帯番号が書かれている。


彼の行動の真意がわからず首を捻る私だったけれど、すぐに先輩スタッフから表に戻るように連絡があって、慌ててそれをカバンにしまい込んだ。