“この日はデートなんだよねぇー……”
シフト決めや、急遽時間がかかりそうな残業を余儀なくされた時。
そんな事を言いながら、意味あり気な視線を私に送ってくる。
私もバカ正直に、遠距離恋愛だなんて話してしまったのも悪いんだけど。
そのせいで“佐々木さんは彼氏に会わないんだから、時間あるよね?”みたいな空気を醸し出してくる。
それで結局、以前にも増して残業時間が増えて……。
残業手当は勿論増えるし、ついでに遊ぶ時間がないせいで、貯金もどんどん増えていく。
「はぁー……」
お店の裏で顧客リストの入っているパソコンをいじりながら、今日何度目かもわからない、盛大な溜め息を吐く。
だけど、次の瞬間。
「佐々木さん」
「は、はいっ!」
急に背後からかけられた声に、私は飛び上がった。
「す、杉本マネージャー」
驚いた私の後ろには、いつの間に現れたのか、杉本マネージャーが立っていた。
「お疲れ様」
「お、お疲れ様です!」
思いっ切り吐き出した、オヤジくさい溜め息を聞かれたのではと慌てる私をよそに、彼はパソコンの画面を覗き込む。
「顧客リスト?」
「あ、はい。今日は新規のお客様が多かったので、データ入力を……」
「そっかそっか。頑張ってるな」
そう言うと、杉本マネージャーはにっこり笑って、私の頭をポンポンと撫でた。
その手が、あまりにも大きくて、温かくて。
「……っ」
自分の頬が赤くなるのを感じた私は、慌てて顔を伏せる。
上司とはいえ、やっぱりその手は“男の人の手”なんだもん。
だけど、そんな私に気付く様子もなく「あー、これって、セクハラになるのか?」なんて言いながら、ちょっと困ったように彼は笑った。