「佐々木さん! あちらのお客様に、色違いの物をお出しして」
「はい!」
「それが終わったら、顧客リストに新規のお客様のデータ、書き込んできてくれる?」
「あっ、はい!」
本店に異動になって、三週間。
だいぶ仕事には慣れてきたけど、やっぱり勝手が違う上に、前よりもやらないといけない事が多い。
目が回るほど忙しい毎日と、ちょっとした困り事のせいで、私は精神的に疲れ始めていた。
仕事は何とかなる。
だけど、どうにもならないのは……人間関係。
ここの人達には、本店独特の空気がある。
何て言うんだろう。
これも一種の上昇志向っていうのかな?
少し、ギスギスとした空気が漂っている。
とにかく、前の支店にはなかった雰囲気で、正直私はそれに圧倒されていた。
みんな自分の売り上げを上げるのに必死で、同僚は“仲間”というより“ライバル”という感じ。
それが、私にとっては一番キツかった。
ここには、仕事をしに来ているのであって、遊びに来てるわけじゃない。
それは、わかっているんだけど……。
休憩中とか、仕事の後とかに、楽しい会話くらいしてもいいんじゃないかと思うんだよねー。
でも、ここの人達には、それが全くない。
唯一知っているプライベートな事と言えば、五人いる女子社員全員に、彼氏がいるって事くらい。
それだって、別にキャーキャー言いながら、ガールズトークをしたわけでもなく。
それを話す事で、諸先輩方は、新人の私に残業を押し付けやすくしたかっただけの事。