淋しさが消えることは絶対にない。
それでもその気持ちを抱えて乗り越えようって決めたんだから。
少しだけ重たくなってしまった、気持ちと空気。
それを誤魔化すように、元気よく声を上げた。
「あっ! そうだ!! あのね、稜君にお願いがあるの」
「お願い? なになにー?」
「ちょっと言いにくいんですけど……。しばらく、稜君の部屋を借りちゃダメかな?」
「俺の部屋?」
今は実家に住んでいて、新しい職場である本店までだと、今の倍近く通勤に時間がかかってしまう。
それに比べて稜君のマンションは、本店にかなり近い上に電車も乗り換えなしで済む。
自分でも図々しいお願いだとは思うんだけど、さすがにこれ以上朝早く起きるのはかなりキツくて。
「ダメかな?」
「そんなの聞く必要ないよー!いいに決まってんじゃん!」
ちょっとドキドキしていた私に、稜君は拍子抜けするほどさらりと言い放つ。
「ホントにいいの?」
「俺、言ったでしょー? “好きに使ってて”って! 忘れちゃったー?」
「覚えてるけど……さすがに住み込むのは申し訳なくて」
「申し訳ないとか、そんな他人みたいなこと言わないでよっ!」
――その後、ちょっと笑った稜君が、ポツリと言ったんだ。
「俺が日本にいたら、一緒に住めてたかもしれないのにね」
「――え?」
その言葉に、どう反応したらいいのかわからない私の口からは、少し戸惑ったような声が漏れ出てしまった。
「あー……ごめん! 俺、何言ってんだろ。さて、そろそろ練習戻らないとだ!」
「そっか……。じゃー部屋、ちゃっかりお借りします」
「うん! どうぞどうぞ! また電話するね」
「うん、またね」
少しの余韻を残して、切れた電話。
私は座っていた椅子の背もたれに寄りかかり、小さく溜め息を吐いた。
“俺が、日本にいたら”。
その言葉に、また感じてしまった二人の間にある距離。
“一緒に住めてたかもしれないのにね”。
それを想像すると、すごく幸せなはずなのに……。
そんな未来がくるのかがわからない今、その言葉は、私の胸をちょっぴり痛くするんだ。