「へぇー、すごいじゃん!それって、昇進? 栄転? って言うんでしょー?」
「多分、栄転ね。まぁ、そうなんだけど」
辞令がおりたその日、いつも通り残業をして時間を潰していた私の携帯が、稜君からの着信を知らせた。
「じゃーやっぱり凄いんじゃん! おめでとー!」
「あ、ありがとー」
未だに事態に付いていけない私は、稜君にお祝いの言葉を貰って、やっと何となくだけど実感が湧いてきた。
「嬉しくないの?」
「嬉しいよ! 本店だし! でも、ちょっと忙しくなるかもしれなくて」
「そっかぁ」
「……うん」
そのまま流れた小さな沈黙を、先に破ったのは稜君だった。
「美月ちゃん。実はさ、俺もちょっと忙しくなるかも」
「そうなの?」
「うん。実は、こっちのチームのMFが一人ケガしてさ。手術するらしいから、ちょっと復帰は時間かかるかもって」
「じゃー、心配だね」
「うん。で、その分、俺が試合に出る時間が増えるから、多分忙しくなると思うんだー」
チームメイトの怪我だから、手放しには喜べないけど、稜君が活躍してアピール出来る時間が増えるのはやっぱり嬉しい。
それを素直に伝えたら、「美月ちゃんらしいね」って笑われた。
でもそっか。
今でさえなかなか合わない時間が、もっと合わなくなるのか。
「……大丈夫?」
「え?」
「辛くない?」
“辛くない?”
私の微かな変化にも、稜君はこんなにも簡単に気が付いちゃうんだね。
「……うん! 大丈夫だよ」
――淋しいけど、大丈夫。