「じゃー、日本食が恋しくなったら言って!」

「え?」

「田舎のお母さん風な荷物、送ってあげる!」

任せてと言わんばかりに胸を張ると、何故か稜君がフッと笑うから、理由もわからず目を瞬かせる。


「美月ちゃんが来てくれるのかと思ったのに、残念」

「――え?」

それって、どういう……。

一つ大きな音を立てた後、少しだけその動きを速める心臓。


「ゴハン作りに、イギリスまで来てくれるのかなぁって」

「あー……」

そうだよね。

それは“遊びに来て”って事だよね。

“ついて来て”、ではないんもんね。


「だって、私が作ったゴハンを食べて、稜君がお腹壊しちゃったら大変だしなー」

「大丈夫! 胃腸薬常備しておく!」

「ひどいっ! ホント失礼だし!!」

「あははっ!!」

今までと変わらない様子で、楽しそうに笑った、稜君だったけど……。

そっと私の髪に触れ、少し淋しそうな顔をして、瞳を見つめた。


「美月ちゃんに会いに、帰って来るから。だから、美月ちゃんも俺に会いに来て」


その顔を見たら、胸も喉も、ギューッとなって……。


「美月ちゃん?」

「うん」

涙を隠すように、私は稜君の胸に顔を埋める。


「ごめん。ちょっとだけ待ってね。もうちょっとしたら、平気なるから」


そう呟いた瞬間――。


「……っ!」

ソファーの上に覆い被さるようにして倒された私の唇を、稜君の唇が塞いだ。

何度も何度も落とされる、その温かいキスに、私の瞳からは、我慢していた涙が零れ落ちてしまったんだ。


そして、そっと離された稜君の唇から、苦しそうに紡がれたのは、

「一人にして、ごめん」

そんな、悲しい言葉。