「それでさ、この部屋は取りあえずこのままにしとくから」
そっと離れた稜君が、私の顔を覗き込む。
「へ? そうなの?」
「うん。ここ、年間契約なんだよね。だから……」
私の目の前に差し出されたのは、キラキラしたキーホルダーが付いたカギ。
「これは、美月ちゃんのカギ。好きに使ってて」
「え?」
「休みが取れたら、ここに戻ってくるから」
「……」
「その時も、それ以外でも、好きな時に来て、好きなように使っていいよ。帰ってきた時、美月ちゃんの物でいっぱいになっててもいいから」
「……うん」
ねぇ、稜君。
あなたが、優しい声でそんな事を言うから、また溢れてしまいそうになる涙を一生懸命我慢しないといけなくなるんだ。
「あと、もう一個。申し訳ないお願いが」
「へ?」
「ポーキーを預かって貰えないかなぁって……」
「ポーキー?」
「うん。連れて行きたいんだけど、多分一人ぼっちにしちゃう事が増えるから」
「そっか……」
そうだよね。
きっと、今まで以上に忙しくなるんだもんね。
「わかった! 多分平気だけど、一応、親にも聞いてみるね」
「うん。ありがとう」
「あとは、何かある?」
私のその問い掛けに、稜君は一瞬困ったような表情を浮かべる。
微妙な表情に、どこまで踏み込んでいいのかが分からずに、私は気付かないフリをした。
「……ん?」
「ううん! 何でもない! 何か思い付いたら、またお願いするかもー」
「うん。わかった! もう住む所は決まったの?」
「まだだけど……。アパート借りて、また独り暮らしだろうねー」