隣の結衣からは、ウットリとした様子で吐き出された溜め息しか聞こえず。

気持ちは分るけど、この人は私の親戚になるわけだし……。

「お疲れ様です」

だから私も、同じように笑顔を返す。


「美月ちゃん」

わかってはいるんだけど、初めて呼ばれた自分の名前に、つい反応してしまう素直な心臓。


「随分こういうの慣れてるんだね」

「え? “こういうの”とは?」

「受付とか」

そう言って首を傾げて、またちょっと笑う。


「あー、仕事柄ですかね?」

「仕事?」

「はい。外資系のショップの店員なんです。だから、人と接する事が多いので」

「あー、なるほど」

納得したように頷いたお兄さんは、私達の手元にあるリストを覗き込んだ。


伏せた目にかかるまつ毛が長いなぁなんて思っていた私に、

「そろそろ、受付閉じちゃおう」

突然、翔太さんのそんな声が落とされる。


「え?」

「受付済んでないの二人だけだし、あとは俺がやっとくから。二人は中で楽しんでおいで」

「でも……」

翔太さんはにっこりと笑ってくれているけど、中途半端にお願いするのが申し訳なくて、“最後までやります”と、口にしようとしたのに。


「は、はい」

すっかり彼に魅了された結衣が、まるで催眠術でもかけられたように、そんな返事をしたのだった。