「も、もういい! 知らないっ!!」
その顔にさえドキドキしてしまう、どうしようもない私は、素直になれないままプイッと窓の方に顔を向けた。
そんな私を、運転手さんと二人で笑った稜君は、優しい声で言ったんだ。
「ごめん、冗談」
「……」
“冗談”。
その言葉がかかるのは……?
私を“無茶する子”扱いした事?
それとも、彼氏のフリをした事?
もう、よくわかんないや。
「はぁー……」
もう一度窓に視線を戻し、こっそりと溜め息を洩らした瞬間。
「……っ」
後部座席のシートの上。
私の手を、稜君の温かい大きな手がそっと握ったんた。
驚いて稜君に視線を戻すと、彼は窓枠に頬杖を付いたまま、さっきまでの私と同じように、窓の外を眺めていて。
彼がどんな表情をしているのか……私には、見る事は出来なかった。
ねぇ、稜君?
こんな事されたらさ、単純な私は誤解しちゃうよ?
私のこと、好きなのかなって……そんな大それたことを思ってしまう。
でも、おねぇーは?
香水の彼女は?
頭の中に浮かぶ言葉を、全部口に出してしまえたらと思うのに……。
そうしてしまうと、今のこの関係が全部壊れてしまうかもしれない。
そう思うと、私はやっぱり何も言えなくなってしまう。
色んな事を考え過ぎて、身体がフワフワと浮いているような変な感覚に襲われる中、稜君の手の温もりだけが、妙にハッキリと感じられる気がした。