どうして今、稜君は一人なんだろう。

なんで“香水の女の人”は傍にいてあげないんだろう。

この人は、こんなにも悲しんでいるのに……。

そう思うと、悔しかった。


私だったら、稜君をこんな風に一人で泣かせたりしない。

彼の涙が止まるまで、ずっとずっと、傍にいるのに。


「はぁー……」

自分勝手に、そんなことを思っていた私の肩の辺りが、大きく吐き出された稜君の息で熱くなる。

その熱い空気に、心臓がドキリとした。

だけど、それはほんの一瞬のこと。

フッと軽くなった肩と、ひんやりとした空気に触れる体。


「ごめん」

俯いたままポツリと口にして、スッと離れた稜君に、胸がチクンと痛む。


――私じゃなくて、おねぇーだったら。

彼はこの体を抱きしめて、そのままどこかに閉じ込めてしまいたいと、そう思うのだろうか。


「……ううん。謝らないで」

自分の醜い嫉妬心を押し隠し、稜君に静かに声をかける。

その声に、下を向いたまま何度か頷いた稜君は、

「どうして、ここにいるってわかったの?」

そう訊ねたんだ。


「何となく。試合の時、ずっと空を見てたから」

「そっか……」

ゆっくりと顔を上げた稜君の目は、やっぱりちょっと赤いけど、私を見て小さく笑ったその顔からは、さっきよりも少しだけ悲しみの色が消えている気がした。