「美月ちゃん?」
一瞬、飛行機に目を奪われた私に、静かにかけられた声。
「……うん」
「どうしたの?」
そう言って、稜君がいつもと同じように、ふわりと笑うから……。
「今だけ」
「え?」
「今だけ、傍にいさせて」
私の口からは、そんな言葉が零れ落ちてしまう。
だって、こんなの悲しすぎる。
「美月ちゃん……」
一瞬驚いたような顔をした稜君は、また視線を空に向けた。
そして、ゆっくりと近寄ろうとした私に、少し笑ったような声で言ったんだ。
「今……近付かない方がいいかも」
だけどその声は、私にも分かるくらいに震えていて。
――“気が付いたら”。
本当に、そんな感じだった。
稜君の元に歩み寄った私は、背の高い彼の髪にそっと指を通し、その頭を、自分の肩に引き寄せていた。
「……っ」
私の行動に、稜君が一瞬、息を呑むのがわかった。
だけど、次の瞬間。
「――……っ」
稜君は、本当に息が止まってしまうんじないかと思うほど強い力で、私の身体をギュッと抱きしめたんだ。
「ごめん……っ」
何度も何度も、同じ言葉をくり返しなら、小さく肩を震わせる稜君。
私の肩が、しっとりと濡れていく。
「稜君、頑張ったね」
小さく囁いた私の耳に、
「頑張りすぎたよね……」
ほんの少し笑ったような、稜君の籠った声が聞こえた。
今日の試合のスコアは、3-0。
1ゴール、2アシスト。
それが、稜君の戦績だった――……。