「俺のところに来い。お前みたいな奴が欲しかったんだ」
男は口を動かして、自分の名前を伝えた。

「蓮だ」
ー朝ごはんのお粥も、腹に収まらない。
色々な事が起きすぎて亜子の心は限界を感じていた。
桜の一族としてケジメをつけなきゃ…。
そんな事を考えて、常にボーッとしていた。

「姉様、散歩に行きましょう」
「…。散歩?」
亜子を心配する唯は、彼女を外に連れ出した。


すんだ空気のせいか、足が進む。
桜の花が舞う綺麗な道…。
屋敷からほど遠くない場所だった。

「唯はいつもここを散歩してるんだね」
「はい。良い気分転換になるんです」
確かに、と亜子は思った。
というよりは、桜があるだけで落ち着いた。
唯は機嫌が良く、足取りを弾ませている。

「唯」
亜子が唯を呼び止める。

「私は、木陰の一族が憎い。奴らは悪魔ー許しちゃいけない。全面戦争を…行おうと思う」
「!!」
全面戦争とは、関係のない者にも協力してもらい、戦争をすること。

何故その決断をしたのか…
聞かなくても唯には分かっていた。
長い間真実を隠され、敵の所で暮らし、裏切られ…。
彼女の心を、これ以上傷付けたくは無かった。
だから唯は、これだけ言った。

「…わかりました」

その日の夜。
亜子は唯が教えてくれた散歩道を通り、桜の木の前で止まった。


ピンクの花が闇に中和した、綺麗な色どり…。
後ろから、足音が聞こえた。

見なくても分かる。
この音は…きっと…