「あたし、確かに亜子が憎い」
美加が龍の手を握りながら言った。
龍は美加の顔を見ることなく、相槌をうつ。

「だけど…一緒にいるうちに、段々感情が芽生えてきたの。この子が悪いんじゃない…そうさせたまわりが悪かったんだって…」
ー亜子に何も罪はない。
ただ桜の一族に産まれ、生きていただけだ。
そんなの分かっていた。
分かっていた、筈なのに…

「なのにあたしは亜子を傷つけた。だから、もうあの子の好きにさせてあげたいの。あたし達を恨むならそれで構わない。どんな運命でも、あたしは受け入れようと思う…」

龍の手を握る美加の手の上に、悠の手が重なる。
美加は思わず悠を見ると、彼は微笑んでいた。

「そうじゃな」
その笑顔が嬉しくて、また涙が出てきてしまう。
楓も悠の手の上に自分の手を重ねた。

「何か、昔に戻ったみたいだね」
「あんな馬鹿な時代には戻りたくないわい…」
「悠、顔真っ赤だよ??」



ー風がふいている。
葵の髪を揺らし、桜の匂いを連れてくる。
何か懐かしい感じがして、葵はため息をはく。
あのあと、葵は屋敷から逃亡した。
行き着く先も無く、うろちょろしていた。

「…1人なのか?」
「!」
まだ若い男性が話しかけてきた。
目元に傷がついていて、柄が悪そうな男。
葵は怖がることなく返答した。

「そうだったら何か?」
男はいきなり笑い出した。
その不気味な笑みに、思わず後ずさりをしてしまう。