亜子はちらり、と席を見る。
鍛錬し終わった後の龍が来ていた。
彼の周りを三大将が囲み、皆で笑いながら話している。

龍はとても童顔で、可愛らしい顔をしている。
だけど男らしいため、女性からは人気が高かった。

彼が来るだけで、場が明るくなる。
不安な気持ちも彼がいれば和らいでしまう。
ー亜子にとって、不思議な人物だった。

「お、亜子か」
「!!」
見過ぎたのか、龍に気付かれてしまった。
亜子は顔を真っ赤にしながら、胸を押さえた。
見ているところを逆に見られるなんて、恥ずかしい…。

龍が手招きで亜子を呼ぶ。
三大将の悠、楓、葵がその場から離れた。
その意味が分からず、亜子は戸惑うが、龍の笑顔に勝てず隣に座る。

「はい?」
「その指輪、大切に付けてくれてるんだな」
「…龍様に貰ったものですから…」

ー昔、亜子がまだ9歳のころ。
亜子の一家は何者かに襲われ、滅びた。
その時亜子を救ったのが、まだ12歳だった龍だった。
龍は泣き叫ぶ亜子から離れず、ずっと傍にいた。
龍の一味に引き取ろうと言ったのも彼だった。
そして1ヵ月後、今まで傍にいた龍が戦いに行くことが嫌で、亜子は一晩中泣いていた。
そんな彼女の為に龍は自分の指輪を出発直前に渡したのだ。


「そう言ってくれると、ありがたいな。それ実は親父の形見なんだ」
「え…!」
亜子は思わず声をあげた。
龍の父親は、3年前に戦争で亡くなった。
彼の死に多くの人が泣き、竜も悲しんでいた。
そんな高価な価値のあるものを、私が持っていて良いのだろうか…。

「亜子が持っててくれ」
龍は亜子の手の上に自分の手を重ねた。