「…何をしにきた?俺の首でもとりにきたか」
龍は腰にさした剣を抜き出す。
真剣なその表情から、怖さが感じられた。
いつもの龍とは全く違う……。

「…っ!!」
スッ

思わず動いてしまいそうになった亜子を美加がとめた。
彼女は額に汗を流しながら、青ざめた顔で亜子に目で言葉を伝えた。
亜子は美加の腕を握ると、落ち着いて視線を龍に戻した。
「いや」
葵も剣を取り出して龍に向けた。
ーついこの間まで仲間だった人間が、こうも変わるなんて。
亜子は目の前の光景を信じることが出来なかった。

「俺の狙いは、その嬢さんよ」
「!?」
亜子は目を疑った。
葵は明らかに、自分を指している。

「わた…し?」
葵は亜子を見てくすりと笑う。
その笑みは、残酷で、決して楽しい気分にはならない。

「お前、知らないんだろ?自分のこと」
ー自分のこと…?
確かに私には、龍様に拾われる前の記憶がない。
たまに思い出すことはあっても自分の意思では思い出せない。

「…」
亜子は黙り込んでいる。
葵は亜子の心の内を除くように、続けた。

「知りたいだろ?教えてやろうか?」
「や…」
「やめて!!」
龍よりも先に、美加が声をあげた。

「美加…?」

美加は思いつめた表情をして亜子を見つめる。
その瞳からは、いつもの美加を感じる事は出来ない。
「隠すお前らが悪いんじゃねーか」
美加は足元に忍ばせておいた短剣を出した。
それを葵に向けて、顔を向ける。

「やめろ…お前にどうこう言われる義理はない!!」
「待て、美加ッ!!!」

キィンッ
彼女の持つ短剣が地面に落ちる。

「悠…っ」
「落ち着け」