「ー…」
指輪を持ったまま、龍は自分の部屋に戻った。






「…っ!!」
亜子は部屋で泣いていた。
いつも優しい龍が、表情を変えた。
怒らせてしまったのだろうか…。
指輪を外してしまったことを、後悔し始めた。

外を見るともう夜になっている。
食事を作らなければならない時間だが、生憎そんな気はしない。
ボヤける視界を辿り、亜子は外に出た。

「…あ」
いつも通りの散歩道に、少年がいた。
前を向いていて、こちらには気付いていない。
亜子は後ろに近付き、声をかけた。

「何してんのっ??」
「うわぁ!!」
少年は驚いて亜子を見つめた。
驚いた可愛らしい顔が、何だか亜子を癒してくれる。

「何だよお前…いきなり出てくんな!!」
「そんな事より、聞きたいことがあるんだけど…」
少年は仕方ないなという顔で地面に座り込んだ。
亜子も座り込んで話を始めた。

「あの指輪…何で届けてくれたの?」
亜子は自分の何もついていない手を見つめる。
指が寂しいと言っているようにも見えた。
「…別に。間違えて、落とした」
あきらかに嘘をついている態度で少年は言った。
目なんか泳ぎまくっている。

「教えて!!それが分かれば…仲直りできるかもしれない…」
亜子は止めていた涙をまた流し始めた。
龍の事を思うと、自然に胸が痛くなっているのだ。
ーこの気持ち、私は知ってる…。