「?」
「これ……」
亜子はポケットから指輪と取り出す。
見れば見るほど、亜子が龍から貰った、彼の父親の指輪と似ている。
龍はそれを見た瞬間、血相を変えた。

「ー…これ、どこで拾ったの?」
真剣な瞳。
自分の心を除かれてるような気がして、変な気分になる。
「えと…知り合いの男の子が届けに来てくれて…。でもすれ違いになっちゃって」
「ふうん…」
龍は意味深に考え込み、腕を組んだ。
その様子から、この指輪が2つあるという事実は、良いことではないのだろうと悟った。

不機嫌な顔をしているようにも見える龍。

「…ごめんなさい」
「何で謝るの?」
亜子の口から、謝罪の言葉が自然に溢れた。
自分でも驚いたが、仕方がない。

何を言っても、龍の表情は変わらなかった。

「だって…怖い顔してたから…」
龍はびっくりした顔で亜子を見ると、すぐに笑顔に戻った。
「ごめんごめん」
ーいや、笑顔ではない。
必死に笑顔を作ろうとした、苦笑い。
何だか思いつめたような気持ちになる。
段々と視線がジンワリしていく。

「亜子?」
龍の言葉も耳に入らない。
何かやましい事をした訳では無いのにー
なのに、涙が止まらない。
罪悪感が胸の中で大きくなっていく。

ー何でこんな気持ちになるのだろう。

静かに指輪を外す。

ダッ

亜子はその場から逃げ出した。
龍は追うことをせず、彼女が落としていった指輪を拾い、それを見つめた。

感情も何もない目で、ゆっくりと指輪を太陽に照らし合わせる。