「ふざけるなよ?そんな答え、納得できるわけないだろ」


地を這う蛇のような低い声は思わず「ごめんなさい!私が悪かったです!」と謝りたくなる迫力だった。席を立ちながら彼の手がかっさらうように机上に置いてあった二人分の伝票を奪っていく。


そのついでとばかりに、ことりの携帯も一緒に。


「ちょっと・・・!それ!私の携帯!」


勢いよく立ち上がり、彼の片手に握られたままの携帯に手を伸ばす。



「おっと!・・・へえ。フルネーム鈴原ことりっていうんだ。お姉さん」



顔の横でひらつかせていた携帯を餌にことりをおびき寄せ、伸ばした手が届きそうになったところで、ひょいと遠ざける。

身長の高低差に、まさか椅子に乗り上げて上から飛び掛るわけにもいかず、為すすべもなく途方にくれることりを尻目に、他人のものであるはずの携帯を器用に操作し、オーナー情報を見ている。

「ちゃんとした答えを聞かせて。俺が納得するちゃんとした答えを。」
「答え・・・って」
「この期に及んで、年齢差とか、価値観が違うだとか、そんな理由も許さないからよろしく」
「ちょっと!だから・・!」


背を向けた彼の後ろを慌てて追いかけようとして、置いたままのトレーに置かれた二人分のグラスが目に入る。



「・・・・・えっと、これは燃えない、こっちは燃える・・・」


上着のコートを腕に、ショルダーバッグを肩にひっかけたまま、ことりは分別しながらゴミを捨てる。最後にグラスとトレーを返却口に戻した。



「ねえ!だから、伝票と携帯・・・・」


後片付けを済ませ、慌てて追いかけたところで、ことりがゴミを捨てている間に二人分の支払いを済ませた彼は、さっさと店を出て行ってしまっていた


「おごってもらうなんて、冗談じゃないし・・・。それよりなんで携帯持ってくのよ~~~!!」



彼が消えていった通りの向こうに届かないとわかっているのに声を張り上げる。
当然、周りの人に何事かと注目される羽目になり、ことりは逃げるように駅へと向かった。