話し声や笑い声でざわめいている中、大きくもないその声は発した瞬間、周囲の雑踏を全てシャットアウトしてしまったようにクリアな音声でその内容をことりへと届ける。


始め、何を言われたか理解できなかった。

瞬きを一つした後、動き出した時間と思考に、頬を僅かに染めた彼以上にことりの顔が熱を帯びた。


氷が溶けてすっかり薄くなってしまったアイスコーヒーをマドラーで掻き混ぜながらも、頭の中は桃色に沸騰したままだ。


目の前の彼は緊張した面持ちながら、目を逸らすことなくじっとことりを見詰めながらその唇が答えを発するのを待っている。

「えっと・・・・」

目の前に落ちてきた横髪を耳にかけながら、ことりは伺うように彼の姿を見た。
正確には彼の服装を。

首元を軽く開けたシャツにネクタイを緩く締め、濃紺の上着を着ている。
その胸ポケットには何らかの紋章を刺繍で飾ったエンブレム。



どう見たとしても学生。それも高校生だ。