帰り道に立ち寄るお気に入りのカフェ、壁際の広々とくつろげるソファ席に深く腰かけ、背をたっぷりと預ける。


店内に漂うのはほろ苦い珈琲の匂い。


同じ場所に通い続けていると、頻繁に訪れる客の顔ぶれも何となくは覚えてくる。

角の席でパソコンを開いているスーツ姿の女性、窓際の席でおしゃべりを楽しむ恋仲らしき男女、壁に隣接したソファテーブルでミステリー小説を読む男性、カウンター近くのテーブル席で分厚いハードカバーの本を開いた壮年の男性。



(まだ、来てないのかな。)



店内を見回して、崇也の姿を探していた。



ロゴの入ったスポーツバッグを肩にかけた制服姿が目に映る度、席から腰を浮かしかける。「ご注文ですか?」と店員に微笑まれ「あ・・・お願いします」と曖昧な笑みを浮かべた。



カップにたっぷりと注がれた炭色のブレンドコーヒーはこれでもう5杯目になる。左手首にした腕時計に目線を落とせば、閉店時間の30分前だった。



流石に今日は来ないだろう、と鞄を手に席を立つ。








崇也は次の日も、その次の日もカフェに姿を見せなかった。