「気づいたときには目で追ってた。偶然隣の席になったとき、たぶんそれが始まりだったんだと思う。」



本人を前に、好きになった理由を話すのは照れがあるのか、平気な顔をしながらも、崇也の手はホイップクリームを掬う用のロングスプーンを休むことなく、ぐるぐる動かし続けていた。


「そっちは女友達と二人で来ててさ、なんか相談みたいなのしてた。隣にいた俺ですら、だんだんうんざりしてきてたのにさ、あんた嫌な顔一つしないで、親身になって聞いてて、それ見ていいなって思ったな。」



女友達。恐らく瑞穂のことだろう。確か恋人と別れる・別れないの相談をずっとこのカフェで受けていた覚えがある。


「・・・・それから、ずっと見てた」


ロングスプーンから手を離した崇也は目線でショーケースを示す。


「いつもミルフィーユかロールケーキで迷ってるとこ。で、迷うんだけど結局どっちもやめるとこ」


目線はレジに向く


「商品受け取るとき、絶対お礼言ってるとこ」


戻して、今度は座席へ


「誰かと一緒のとき、必ずソファ席譲るとこ」


手元に


「カップを持つとき、両手で持つとこ」



熱を孕んだ視線に、ことりは戸惑いながら、落ちてきた髪を耳へとかけようとする。が、代わりに伸びた崇也の手がその役目を果たした。



「照れたとき、耳に髪かけるとこ。」



自分でも無意識でやっていた癖を指摘され、ことりの鼓動が高く跳ね上がった。



「何度もこっち見ろって心の中で言ってた。気づいてた?」



問われ、ことりは首を横に振る。



「・・・ごめん。全然わからなかった」
「いいよ、別にそれ怒ってるわけじゃないから」


笑って崇也は混ぜすぎてトッピングが完全に溶けてしまった甘いコーヒーに口をつけた。

それを見て、ことりも自分のコーヒーを一口飲む。




冷めて香りも風味もなくなった筈のコーヒーなのに、今までで1番甘く感じた。